ちらし寿司


「ちらし寿司…ですか」
「お前の好物だと聞いて作ってみた。味は奥方様に劣っているだろうが…」

そう言いながら小皿に取り分ける。
見た目も、とても素人が作ったとは思えないほどの出来上がりだった。

「…いえ、とても美味しいです」
「そうか? お世辞でも嬉しい」
「お世辞ではありません。本当に、美味しいです」

そう言う瀬那だが、顔は悲しそうに歪んでいた。
多分、奥方様を思い出しているのだろう。と、紫苑はそう感じた。
瀬那の美味しそうに食べる顔が見たくて選んだのが失敗だったのか。

「すまない。泣かせるつもりはなかった」
「紫苑?」
「泣かないでくれ」
「……すみません」

紫苑に言われ、初めて泣いていることに気づく。
そっと抱き寄せられた胸の中で、瀬那は幸せを感じていた。
ちらし寿司を見ると真理を思い出してしまう。辛い方の思い出が強い。
それでも多分、これからは大丈夫だろうと思った。
紫苑が居る限り、大丈夫だろうと。

「今はまだ辛いですが…いつか必ず、好きだと…幸せだと断言してみせます」
「瀬那…」
「紫苑の味が、しますから。幸せになれます」
「なっ」

瀬那がそう言える日は、限りなく近い所にあった。
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