「…っ、何です?」
臭いを感じ、意識が浮上する。
嗅ぎ慣れた臭い。
それでも何処かに、嫌なものを感じさせる。
「これは…消毒薬、ですね」
それはまるで、病院に居ると錯覚させてしまうほど漂っている。
「一体ここは…? あのライトは、何処かで見覚えが…」
頭上には、何処かで見た覚えのあるライト。
いや、それはライトと言うには何かが変だった。
部屋に置くものにしては、電球の数がありすぎ。
殺風景な牢屋などにも、相応しくない数。
「…薬の臭い…ライト…そして、このベッド…」
それらを繋げると、答えは一つしか出なかった。
「手術室?! 何故っ?!」
悟った瞬間、ライトが点灯する。
眩しいという表現では表せない明るさに、薄っすらと目を開けるのがやっとだった。
「…私を、どうすると言うのです?」
恐怖に負けそうになるのを押さえ込むのがやっとだった。
人間誰しも、手術を受けるのが楽だとかは思わない。
必ず何処かで、恐いと思ってしまう。
瀬那とて、近衛兵という戦場に立つ人間であっても、それは感じる。
人、だからだ。
「以前より、ラン様は仰っていた」
「…ランの信者が、まだ。ランは何を言っていたというのです?」
「知りたいか?」
楽しそうな声が響く。
同時に、黒い翼が見えた。
「奴らの中に居るそいつは、必ず黒い翼になると」
「っ! まさか?!」
「察しが良くて、助かる」
何故自分が捕らわれたのか。
答えは恐ろしい形でもたらされた。
瀬那が、黒い翼の素質を持っている。
ランは早くからその素質を見抜き、何かのためにと一部の仲間に告げていたのだった。
何かとは、白い翼に対抗するための力。
今、白い翼は三人(正確には四人)の上、元近衛連隊長の国王補佐、元黒い翼の指導者が居る。
指導者を失い、弱体化している今のままでは敵わないのが見えていた。
それを覆せるのが、ランの言っていた素質を持つ瀬那。
喉から手が出るほど、どんな手を使ってでも欲しい存在になっていたのだった。
「…私を黒い翼にするため、仲間の翼を奪うのですか?」
「黒い翼の王国が誕生するなら、取られたヤツも本望ということだ」
「冗談では、ありませんね」
「冗談ではないさ」
瀬那がどんなに強く言葉を発しても、楽しそうに笑いながら返される。
逃げられない、逃れられないのが目に見えて分かっているからだ。
懸命に抗えば抗うほど、黒い翼の心を満たして行く。
そういう人間を組み敷いて屈服させるのが楽しい、と。
「私は絶対に、黒い翼にはなりません」
「なるのさ」
たった今から。
そう聞こえた瞬間、意識が闇に沈んで行くのが分かった。
続きます
微妙にオリジナル設定とオリキャラ色が強いです。
そろそろ、この作品のタイトルを考えねば(汗)