考えたくない。
 それでも考えてしまう。
 繰り返してしまう思考を止められないまま、来栖は告げた。

「ですが、それは可能性の一つに過ぎません。それに瀬那は」
「わーってるよ。瀬那には魔法がある。何とかしてる可能性があるってことも」
「ですが、陛下…その瀬那本人が魔法を使えるのを考えますと」
「そのとーりだ。どーしても悪い方向になっちまうんだよ」

 これはまだ推測で、俺の悪い想像だと前置きと念を押して言う。
 黒い翼の新たな指導者、それは瀬那を指していると。
 どんなに考えても、行き着くのはその可能性だと告げた。
 当然、紫苑や翔、櫂は否定をする。
 けど、どこか完全に否定しきれないで居た。
 瀬那が魔法を使える点。
 黒い翼でも、ましてや白い翼でもない、瀬那が何故使えるのか。
 そして、瀬那自身が抱える陰の部分。
 十二歳で人間界に取り残され、生きて来た瀬那の心の部分は、誰も知らない。
 知っていたとしても、ほんの僅かな部分だけだった。
 もしも、内部にそのことを知る者が居たならば。
 そうは思ったが、

「レイヤード、人工的に黒い翼はもう」
「その手の施設は崩壊しています。あとはこの城の研究施設だけです」

 施設は、過去の産物。
 レイヤードの補佐であるランが証拠隠滅を行っていたため、影も形もない。
 残っているのは言うとおり、このウィンフィールド城だけとなる。
 が、

「ん、じゃ…確か最近、研究員を増やしたんだったな?」
「っ! 分かりました。当たってみます」

 研究施設は今も、この城内にあるのだ。
 来栖の予想通りならば、その施設から研究データまたは技術が奪われている。

 レジスタンスの一員はもう、居ない可能性が高い。
「一刻を争う。紫苑、お前も行け」
「はい」

 全てが手遅れになる前に。
 瀬那の救出が急がれた。



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