「陛下、兵の一人がこれを!」

 来栖に渡された一枚の書状。
 捜索隊の兵の一人が何者かから渡されたと、紫苑が報告する。
 その渡した『何者』と言うのは、分かっていない。
 と言うのは、兵は突然後ろから剣を突きつけられ、そのまま振り向かずにという条件を出された。
 だから顔も見ていないのだ。

「…おっさん。確か、黒い翼のレジスタンスがまだ居るって言ってたな」
「情念の洞窟に集まりつつあると、報告したことが…まさか?!」
「そ。ビンゴだ」

 ヒラリと書状を投げ渡す。
 その内容はこうだった。


『我ら黒い翼は 新たな指導者を得た
 我らは指導者の名の下
 白い翼の王と 王家に寝返り裏切った黒い翼に
 復讐を宣言する』


「新たな…指導者?」
「そこが意味不明なんだよ。レイヤード、心当たりは?」
「いえ…ラン以上の者が現れたとは、考えにくい所です」
「けどさ…何か引っかかるんだよ」

 黒い翼のレジスタンスのような動き。
 近衛隊の偵察行動。
 攻撃。
 大きな爆発。
 行方不明の瀬那。
 そのタイミングでの、犯行声明の書状。
 新たな指導者。

「ちょっと待てよ…」

 バラバラのようだったピースが、繋がって行く。
 考えられること。
 考えたくないこと。
 来栖の心は、不安と言う暗闇に落ちる寸前だった。

「考えすぎ…か。けどよ、瀬那に限ってそれはありえねーっつーか」
「クリストファー様?」
「ああ、分かってる。瀬那がそんな脅しに乗らねーってことも」

 紫苑の声が届いているのか、居ないのか。
 一人、思考を巡らせている。いや、無理やり言い聞かせているようにも見える。
 そんな来栖を、二人はただ見ているしか出来なかった。



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