天井から一つ、水滴が落ちる。

「…んっ…」

 一つ、また一つと落ちては、瀬那の頬に当たって散った。
 その程よい刺激により、意識が浮上し始める。

「…ここ、は…?」

 視界に広がるのは、薄暗闇。ゴツゴツとした岩。
 触れているのも、岩だった。

「っ! 私はあの時」

 そして、完全に意識が回復した。
 まだ痛んでいる身体を起こし、これまでの出来事を振り返る。
 偵察に向かう途中、レジスタンスの待ち伏せに遭遇し、攻撃を受けた。
 その突然の出来事に動揺を隠せない部下たちを逃がすため、自ら敵陣に向かい…。
 大きな爆発に巻き込まれた。
 おそらく、敵が投げつけた物に爆薬が仕込まれていたのだろう。
 それも、瀬那が銃を扱うことを知っていたから使った。
 敵側に、情報が漏れていたと考えるべきだろう。

「…内部に、忍び込まれている?」

 そうだとすると、一刻も早く来栖に知らせなくてはならない。
 だが、今の瀬那の身体は、瀬那の意思に反して動いてはくれなかった。
 痛みで気づかなかったのか。よく見ると、身体が繋がれている。

「…武器も…奪われてしまいましたか」

 もしかしたらと思い、懐を探ってみたが…当然といえば当然のことだった。
 残る方法は魔法だったが、

「…当然…ですね」

 こちらの方も、抜かりはなかったようだった。
 敵側に情報が漏れていると言うことは、瀬那の特徴も漏れているも同じだ。
 魔法を封じないはずがない。
 脱出方法が見出せないこの状況。瀬那の胸のうちには、不思議と絶望感はなかった。
 来栖の側には紫苑が居る。それにレイヤードも居る。まだ沢山の近衛兵もいる。
 そして、長年見守ってきた双子と、その仲間が居た。
 だからだろう。この状況に、絶望を感じる要因は何もなかった。

「今は…傷を癒しましょう。それからですね」

 反撃に出るのは、それからでも遅くはない。
 そう、目を閉じた。


 数時間後、絶望を知るとは思いもせず…。



続きます。
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