それから数日。

「今回の事件で、私が感じたことを言っても宜しいでしょうか?」

 体調が本格的に戻った瀬那が、思い出しましたかのように告げた。

「いいぜ。何でも言ってみろ」

「それでは…」

 ゆっくりと目を閉じる。
 思い出すのはあの事件の中で見つけたこと。
 一つ、深呼吸をして。

「貴方が…好きです」

 それは、改めて自覚したことだった。

「これで私は三度、貴方を好きになりました」

「それって…」

「一度目は、幼い頃に。二度目は人間界で。三度目は、その事件の…絶望の淵でした」

「…何か、聞くと物凄いことだな」

「ええ。人生で三度、同じ人に恋をしたのですから」

「いや…そーゆーことじゃ…」

 人生で三度、同じ人に恋をしたよりも。
 三度目の、絶望の淵にいながらも恋をした瀬那が凄いというか。
 少なからず、来栖を驚かせた。

「あ…すみません、訂正があります」

「な、何だ?」

「人生で三度と言いましたが、不適切でした。私は、人生で四度目の恋をしています」

「それって…」

「勿論、今、です」

 四度目は、絶望の淵から帰って来たあの瞬間。
 目覚めて一番最初に聞いたのが、大切な人の声。
 大切な人と最初に会えた瞬間、四度目の恋が始まったのだった。

「…ったく、お前は。そー言われて、俺が黙ってると思うか?」

「少なくとも、思えませんよ?」

「で、誘ってるのか?」

「私はストレートは苦手ですから」

「随分と、ひん曲がったカーブで」

 そっと抱き寄せる。
 四度目の恋をしている瀬那の心に、これまでの恋と、事件の消えない傷も残って居る。
 それら全てが瀬那を作っているのだから、全てまとめて抱きしめる。

「瀬那…お前が無事で良かった…」

「…クリス」

 目を閉じる。
 触れてくる温もりに、瀬那は思う。
 きっとこれは、五度目になるだろう。
 そしてずっと、恋していくだろうと。
 こんなにも、幸せだとかみ締めながら。


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