4th Love
「瀬那が行方不明?」
「はい。そのことをご報告にと、偵察隊の一人が謁見を求めております」
「…分かった」
始まりは、小さなことだった。
ある近衛兵が、街で聞いた話だ。
その話によると、黒い翼の一部がレジスタンスのような行動をしているらしいとのことだった。
場所は、『情念の洞窟』と呼ばれる場所。
以前から、こころ根城にしている黒い翼が居ると言う情報もあったためか、偵察隊を出すこととなったのは三日前にこと。
その偵察隊に、近衛連隊長である瀬那と、実力のある数名の近衛兵が選ばれた。
当初、国王であるクリストファー(来栖)は、『少なすぎる』と反論。
しかし、連隊長である瀬那は、『この人数で十分です』と増兵を断ったのだ。
偵察には少人数の方が目立たない。頭で分かっていても、反論してしまう。
来栖にとって、瀬那は大切な存在だ。大切だからこそ、危険な場所へ向かわせたくない。
それでも、彼は近衛兵…近衛連隊長だ。そんなことは言えない。
瀬那は、来栖の役に立ちたいから、守りたいから、選んだ道だ。どんなことでも受ける覚悟をしていた。
今回の任務だって、そうである。
来栖の国を、一日も早く真の平和へと導きたいから受けたのだ。
そして、その結果がこうなるとは、誰にも予想できなかった。
「はい。セナ中将は、我々を逃がすために、敵に向かわれました」
「で、その後は?」
「その場から少し離れました所、大きな爆発がしました。何人かはその爆風に飛ばされまして…やっとの思いで街まで」
「行ったはいいが、いくら待っても瀬那は来なかった…か?」
「はい。それで、このことを陛下にご報告せねばと思い、一番ケガの軽かった私めがその任を担いました」
「…そうか。ご苦労だったな」
「勿体ないお言葉です。申し訳ありません」
知らせを持ってきた近衛兵に、ゆっくり休めと伝えた。
その近衛兵は何度も、『申し訳ありません』と言い続けている。
おそらく、何もできなかった己を悔やんでいるから出た言葉だろう。
そして、瀬那を慕っているから。
「陛下」
「おい、おっさん」
ジロリと、そばに控えていた国王補佐官・紫苑を睨む。『陛下と呼ぶな』という意味だ。
睨まれた紫苑は咳払いをし、改めて言葉を発した。
「クリストファー様、今は」
「わーってるよ。今動いてもどーしよーもねーってことはよ。けどよ、ジッとしてることもできねーんだよ!」
「その気持ちは、俺も一緒です。ですが」
「ああ。情報が足りねー。残っている近衛兵に情報収集活動をさせろ。それから、羽村たちに連絡だ」
――今は俺だけじゃ、どうにもならねー。
その言葉は、誰にともなく呟かれた。
誰にでも、何もできない時があるのは分かっている。分かっているからこそ、何もできなかったことを悔やむ。
だが、来栖は知っていた。
自分一人では何もできなくても、仲間が居れば、不可能が可能になることを。
力を貸してくれる人たちが、自分に居ることを。
だから、かつての仲間たちを呼んだのだ。
「…瀬那…」
窓から見える景色。
それは嵐の前の静けさというくら、ひっそりとした夜だった。
不安を募らせるには十分すぎるほどに…。
続きます