豆まき

「豆まき…ですか」
「うん。もしかして…こんな理由でって、怒ってる?」
「いえ。呼んでくださって、有り難う御座います」

二月三日、節分の日。
翔の突然の思い付きにより、久し振りに仲間全員が顔を揃えた。
最近では特にこれといった重要な用や行事がある訳でもなく。
自然と集まる機会が減っていた。
だから、この呼びかけは良いきっかけだった。

「それにしても、何でまた皆で節分なんだ?」
「あのさ…俺、逢坂先輩たちに何も出来ないから、せめて豆まきで幸せを呼べたらって」

照れくさそうに言う翔に、

「翔…豆まきで呼ぶのは『福』」

冷静に、しれっとツッコミを入れる弟・櫂。

「お、同じだろ!」
「意味が違うね」
「ですが、福も幸せも一緒です。福があって幸せになる。幸せがあって福が来る。私はそう思います」
「先生…」

笑う瀬那は、もう昔の瀬那ではなかった。
今がとても充実している―そんな感じを受ける笑みだ。

「翔くん翔くん。そろそろ始めよう」
「そうだな」
「おーし。皆、豆は持ったか? 遠慮はなしだ。全力で投げろ!」

一斉に豆を握り、一斉に遠く彼方へ向けて投げる。
これ以上悲しみの鬼が来ぬ様に。
ウィンフィールドに、それぞれの大切な人に、福が訪れるように。
二月三日、青空の広がる節分の日。
想いを乗せた豆が飛んだ。



オマケ。

「全力で…ですか。それでは」

カチャッ。

「ん? セナ、今カチャッって音が…」
「いきますよ」

パンッ!
パンパンッ!

「せ、セナ?」
「何ですか、シオン中将」
「お前…何を?」
「全力での豆まきです」
「…っつーかそれって」
「ええ…これが本当の、『豆鉄砲』ですね」

穏やかな節分の日の、穏やかな青空の下。
呆気に取られる仲間の顔が並ぶ中。
高速の豆が飛んだ。


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