050)時間


時間を止められたら…―そう思う事がある。



「あのさ、と…クラトス」
「何だ?」

口から出るのは名前だけ。
言えなかった。

「と、ととととと…」
「フ……無理はするな」
「む、無理なんか!」
「構わん。焦る事は無い。いつか自然に呼べる時がくる」
「で、でも…」

もし、その時が来なかったら?
それに、本当は呼んで欲しいくせに。
自然に呼べるまで、どれくらい時間がかかるんだ?

「いつも通りのお前で良い。私をそう思ってくれているだけで」
「っ…」

父さん…。
口はそう動いたのに、肝心の音が出なかった。
悲しそうに俺を見る目。
母さんと俺と、両方失ったと14・5年も思い込んで…。
生きていた俺に会えたのに、父親と認めてもらえず。
ただ時間が過ぎている。

「この事だけは、時間が解決してくれるだろう」
「…時間があれば、呼べるのか?」
「ああ」

離れていた分だけ、時間は必要だ―とクラトスは言う。
でも、その時間も無限にある訳じゃない。限られている。
俺か、クラトスか。
どちらかの時間が…。

「時が来るまで、お前の側に居よう」

じゃあ、その時が来たら?
俺が『父さん』と呼んだ時、クラトスは…側に居ない。
俺が呼ばない限り、クラトスは側に居る。
父さんもクラトスも、両方側に居て欲しいなんて、欲張りだと思う。
だから『父さん』と呼べないのかもしれない。
いつかは、どちらかで呼ぶ時が来る。
そんな時が来ないよう、時間が止まれば良いと願った。
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